過去はいつでも透明色の色彩のよう(第1話)
第一話
もしも、もう変えられないものがあるとして、そうしたらあなたは過去に戻ってやり直したいと思いますか。
もしも、もう取り戻せないものがあるとして、そうしたらあなたはその背中を、その手を掴むことができますか。
もしも、もうどうにもならないことがどうにかなったとしたら、もしも、過去に戻れるとしたら私はきっとやり直すことを選んだでしょう。
大切な人を、大切な誰かを、私はこの手で守りぬくことができなかった。
この手で彼を傷つけてしまった。
あの背中が震えていたことに気づいてあげられなかった。
抱きしめてあげられなかった。
それはきっとあと数か月したら死んでしまうこの弱った体のせいだ。
この細い腕に、この細い足に、この小さな体に大きな背丈の体のあなたを抱きしめる
ことができなかった。
神様......
私はあなたを信じたことは一度もないけれど、お願いです。
私のいなくなった世界でも、彼が笑顔でいられますように。幸せになれますように。
私はいつかの場所でそう神様に語りかけた。
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「ママ、あれは何?」
「ん?ああ、あれはね。ちょうちょうって言うんだよ」
「ちょうちょ?」
「うん、そう」
彼女は優しい顔で愛しい娘にそう教えた。
今日は二人で散歩でもしていた時に、蝶々が娘の前を通り過ぎた。
「きれいだね」
娘がかわいらしい顔をしてそう言った。
「うん。でもママはすみれのことが一番綺麗だと思っているよ」
「ねえ、すみれ」
「なあに」
「ママがすみれっていう名前を付けたのはね。すみれが心の綺麗な女の子に育ってくれますように。誰かを守れるくらいの丈夫で健康な体でいられますようにってパパと考えたんだよ」
「ふうん」
3歳の娘にはまだ難しいようだ。
そんな娘を見つめながら、彼女はふっと小さく笑った。