過去はいつでも透明色の色彩のよう(第2話)
第二話
「玲央。ご飯を食べなさい」
母さんが俺に優しい声をかけてくる。
その顔には深い悲しみの色があった。
「うん……」
俺は言われるまで行動が出来ないから、母さんも絶対にうんざりしている。
それとも心配をかけていたりするのか?
父さんは俺が行動しないたび、何でもいい、父さんが決めてというたびに
ため息をついていつも俺から離れていく。
きっと嫌われた。
別にそんなこともどうでもいい。
料理の味がしない、息ができない、この空間がつらい。
出ていきたい、今すぐに。こんな家なんか出て行って、すみれに一番近いところへ行きたい。
きっと母さんは悲しむ。
仕事から帰ってきたときに俺がいないことに気づき、俺が家出したことに気づき……。
俺はゆっくりとリュックをからった。
どこかの田舎へ行こう。
緑に囲まれて、俺を知っている人のいない場所へ行こう。
そんでどっかの優しいばあちゃんの家にでも移住させてもらおう。
金は小さいころから一回も使ったことのない小遣いがやばいほどにあるから心配はない。
俺は階段を下り、そっと玄関まで来るとばったりと父さんと出くわした。
「!」
「……」
俺は父さんの視線を感じながら靴を履きドアを開けた。
止められることはなかった。
父さんも気づいていたはず。息子がでかいバッグをしょって玄関のドアを開けて、もう二度と帰っては来ないことに。
「玲央。行くな」
だがその声は俺の耳に届くことはなく、ドアが閉まる音とともに消えていった。