過去はいつでも透明色の色彩のよう(第二話つづき)
「あ、ねえ!」
「なに?」
椿という彼女がまた話題を振ってきた。
「あなたは今日学校なのに、なぜこんな列車に乗っているの?」
「………」
俺が一瞬黙ったせいか、彼女は「あ、気にしないで!別に知りたいな~って思ってただけだから!」なんてことを言っている。
本当に気が早い。
しかも初対面の男にこんな風にもう馴染んでいる。
普通は不安になるだろ。
さっきまで俺に恐る恐る語りかけていたのに今ではこんな調子……。
「……家出」
「ん?何?聞こえなかった」
俺の声が小さすぎたのか列車の走る音にかき消されてしまった。
「家出した」
「……⁉」
「耐えきれなくなった、親も学校も友達関係も」
そう言ったところで、俺は言葉に詰まってそれ以上何も言えなくなった。
「そう…」
そんな俺に気づいた彼女はそれしか言わなかった。
どうして?だとかそんなに辛い思いをしているんだねとも言ってこなかった。
でも俺はその二文字だけで体中が安心感を覚えた。
人の心を傷つけるのは関心がなさそうな言葉じゃない。「どうして?」とか自分ではよくわからないくせに人はすぐに土足で人の心に入り込んでくる。
そんな人間が俺はたまらなく嫌いだ。
列車が駅に到着する。
彼女が降りる駅だ。
「いつか学校には来るでしょ?また会えるかもね」
そう言って彼女は列車から降りる人達に紛れて、消えた。
気持ちが楽になった気がする。こんなにもすっきりとした気分は久しぶりだ。
そうして俺が彼女がすわっていたところに目を向けるとそこに一枚の紙きれがポツンと置いてあった。