過去はいつでも透明色の色彩のよう(第二話つづき)
俺は彼女が座っていた所に置いてあった紙切れを取って、そっと開いた。
里中町37-5の家に訪ねてみて!
もしかしたらあなた、住む場所も考えてないんじゃないかと思って。
奈良 椿
その紙切れには急いで走り書きした文字が並んでいた。
俺はとっさに列車の外を見た。
俺の目の端に、彼女の後ろ姿が映った。
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里中町37-5。
……ここだ。
俺は、行先の田原(たばる)村につき里中町37-5の家を見つけるまでにすごく時間がかかってしまった。
何回かこの村の人とすれ違ったが俺には話しかける勇気もなく、自分から聞くことはできるわけがなかった。
緊張しすぎて震える手でインターホンを鳴らす。
ピーンポーン…。
「はーい」
家の中からおばさんの声。
ガチャ。
俺とおばさんの目が合い、「あなたは誰?」と聞いてくる。
「あ、あの…。奈良椿さんのことご存じでしょうか」
声が震えた。
「ああ、椿?椿は私の孫だけど…。何か用なの?」
「実は俺、椿さんの知り合いで、俺が家の事情を話すとこの家を訪ねてみてって...」と言って住所が書かれた紙切れを手渡した。
若干嘘が混じったが、まあそんな事はどうでもいい。
「椿が?あら、ホントだ。椿の字ね。」
「はい」
「あなたの家の事情って?」
俺は頭の中で「家の事情」とやらの嘘を考えてから言った。
「家族が海外に仕事に行っていて俺が椿さんに料理や家事が一つもできないことを相談したんです」
心の中で嘘を固めたこの言葉に罪悪感が広がって行く。
「あら!そうなの。椿のお友達なら家にしばらくの間泊めてあげようか?」
俺はその言葉に身体中を張り詰めていた緊張感が緩んだ。
「助かります」