君が聞かせてくれた希望の物語

1.私の目から希望が消える

 

ピッ。私は駅の改札口を通り、よく晴れた真っ青な空を見ることもなく、ただ機械的に動いていた。

私にとって、足はただ学校へ行くための物であり、口はご飯を食べる物。手はシャープペンを動かす物であり、目は問題集を見るだけの物だった。

余命4か月しか残っていないと宣告された日から、私は勉強に執着するようになった。

どうせ勉強しても私の未来に希望はないと分かっていたけれど、ただ現在を埋めれるだけの≪時間≫が欲しかった。

私は勉強以外にこの孤独を埋められる物なんてなかったから。

でもなぜだろう……。いつからか私の隣には、いつも優しい笑顔で溢れた男の子がいるようになった。

優しくて、希望に溢れた子。

彼へのイメージはいつもそんな感じ。

「遥ー‼」

背後から私を呼ぶ大きな声。そして聞こえたと同時に優希が私に抱き着いてきた。

「もうっ!ここは公共の場だよ。恥ずかしいじゃん!」

「えー。……ケチ」

「何がケチよ」

周りの人から見たら、私たちは幸せラブラブカップルに見えるんだろうな……。

余命4か月と宣告された日の帰り、傘も差さずに優希は泣いていた。たぶん私の代わりに泣いてくれたんだと思う。

……私が涙を流すことが出来ないから。

あの雨の中、優希が言ってくれた言葉に、私は救われた。

彼が私を抱きしめた時、その大きな背中が震えていた。

あんなに優しい彼がこんなにも私に苦しまされている。

そう思った時、不意に出た言葉は

「嫌になったら、もし私を好きじゃなくなったら、その時は離れていっていいから」。

本当は違う。そんな風になってほしくない。だけど本当に優希の幸せを願っているのなら、そうした方がいいと思った。

だから優希は快く受け入れてくれると思っていた。

だけど違った。

「何、言ってんだよっ……!お前のいない人生なんか何の、価値もねぇんだよっ……」

その言葉を嬉しいと思うのは間違っている。だって、私は後4か月で……。

ダメだ。どんどん心が沈んでいく。それと同時に頭痛がしてきた。

やばい、腫瘍が暴れ出して、……る。

「あっ……、うっ!」

私の隣をニコニコしながら歩いていた勇気が私の異変に気づき、彼の表情が青ざめた。

「遥っ!」

「頭が痛いのか⁉なぁっ!」

大丈夫、大丈夫だよ……。だからそんな顔しないで。

「だいっ……丈夫…だからっ!」

そう言って私は頭を抱えて、しゃがみ込んだ。

「遥、病院に行こう」

「優、希っ……。本当に、大丈夫だからっ」

優希は少しの間黙った後、「本当に?」と言った。

「……うん」

本当にその通り、頭痛が治まってきた。そして数分後には完全に頭痛が治り、私は立上がった。

「遥、今日は無理しない方がいい。家に帰った方が…」

「大丈夫!今のだってちょっとした頭痛だったんだから」

私は優希の言葉を遮った。

「でも……」

「だから大丈夫だってば!」

私がそう言ったら、優希の手が伸びてきた。

「な、なに」

私が動揺しているとその手が私の両肩に置かれた。

「じゃあ学校に行くのに一つ条件がある。また今みたいに頭痛がを感じたら、必ず俺と保健室に行くこと。……分かった?」

「ふふっ、優希は心配性すぎない?」

私が声を上げて笑い、いじると優希は口をとがらせて、「だから分かった?」と言った。

「うん、うん。分かった。心配してくれてありがとう」

そして私たちは、他愛のない話をしながら学校へ向かった。