過去はいつでも透明色の色彩のよう(第三話)

「おばあちゃん、おじいちゃん、おはよ~~‼‼」

おばさんの家に椿さんの大きな声が響き渡る。

まるで目覚まし時計のように甲高いうるさい声だ。

ガチャ‼

突然に開け放たれたドアの音と同時に朝に似合わない大きな声が飛び込んできた。

「あ!玲央。おはよう」

「椿さん……朝からちょっとうるさいです!」

「あ~ごめんごめん。私、今日気分上がっちゃってて……」

椿さんはきっとおばさんやおじさんのことが大切で好きなんだろうな。

俺にはそう思える人は一人ぐらいだ。

すみれのためならなんだってするし、自分を犠牲にしてでも守りたいって思える。

でも俺には大切な人が一人だ。

きっと普通の人達は大切な人たちがたくさんいて毎日その人たちに囲まれて支えられているんだろう。

でも俺が大切にしている人は一人しかいなくて誰にも囲まれず、大切な人はもうこの世界にはいなくて誰にも支えられていない。

でもこの家に来てからは変わった。

椿さんやおばさん、おじさんたちのことが大切に思えてきて……。

「椿さん、おはようございます」

「ああ、うん」

「玲央、おばあちゃんが朝ご飯できたから降りてきてだって」

俺は小さくうなずいて、ベッドを出た。

私服を着て顔を洗い髪を整えてから一階のリビングルームへと降りた。

「あ、玲央君おはよう」

おばさんが俺に微笑んで挨拶をしてくれた。

「……おはよう」

少しだけ『おはよう』を言う時に恥ずかしくなった。

おじさんは俺の顔を見て少しだけ頷いたように見えた。

その時、コロン。

お箸が落ちた音がした。

椿さんがそのお箸を取ろうとしたけれどその手はお箸を掴み切れなかった。

「玲央、お箸とってくれない?」

「はい。いいですけど」

俺はそのことに疑問を覚えながら椿さんの落とした箸を拾って渡した。

「ありがとう」

そう言って椿さんは目を少しだけこすった。

もしかして視力が悪いのかな?コンタクトを付けていないのだろうか。

朝ご飯を食べるとおばさんと椿さんは用事があると言って、すぐに出かけてしまった。

俺はおじさんと二人だけで家で留守番だ。

でもずっとおじさんと一緒の部屋にいるってわけにはいかず、俺は自分の部屋に戻り新しく買っていた小説を読んで暇つぶしをした。