過去はいつでも透明色の色彩のよう(第三話つづき)
おばさんと椿さんがその≪用事≫とやらを終えて、家に帰ってきたときにはもう日が傾いていた。
「玲央、おじいちゃんただいまー」
椿さんが俺とおじさんに声をかける。
「あの……こんな俺なんかが聞いていい話じゃないと思いますけど、今日の用事って何だったんですか?」
俺がそう聞くと椿さんは俺から視線を外した。
何か怪しい。
「何でもないの。別に…。今日はこの田原村にある坂石高校の転入手続きがあったの」
「あ!そういえば玲央は私と同じ高校に行かないの?また新しい人に出会えば玲央も今の状態から少しは変わるでしょ?」
椿さんの発言にはどこか棘があって驚いた。
こんなに優しい人でも眉間にしわを寄せるんだなとか、こんな風に怒るんだなということを思っていた。
この家の夕食はいつも六時と決まっていた。
だからご飯を食べ終わった後はさっさとお風呂に入ってしまうから、寝る前の時間の長さにあまりに孤独を感じて戸惑うことがしょっちゅうだった。
その孤独から逃れようと、俺は夏休みのもうしなくてもいい課題をひたすら解き、地理や歴史などの教科書を何回も読み、ノートにまとめた。
勉強というものは俺にはあっていたのかもしれない。
勉強をしていると時間を忘れてしまって、気が付けば22時ということも多かった。
前の中学や高校では、結構頭はいい方で、学力テストではいつも一位ニ位を争うくらいだった。
ガチャ…
部屋の扉が開き、おにぎりを持ったおばさんが「玲央くんはいい子ねえ~。椿は頭が良くないからって勉強全然しないのよ」と苦笑いしながら、でも優し気な表情で言った。
そんなことをもう一度呟きながら俺の部屋から出ていった。
おばさんが置いて行ってくれたのは、ほかほかと湯気を上げるおいしそうな塩おにぎりと海苔おにぎりだった。
俺はそのおにぎりを一つ取り、一口食べてみた。
「うまい……!」
俺は思わずそう呟いていた。
すると扉の隙間から「よっしゃ!」と言っているかのようにガッツポーズをしたのは紛れもないおばさんだった。
俺はそのおばさんの行動に、一人クスッと笑った。